著・岩戸勇太
愛知県豊田市足助町。
ここは紅葉の名所として有名な場所である。記者の仕事をしている私は二月の半ばにここを訪れていた。
ここは紅葉が有名な場所であるが、夏には避暑にやってくる人もおり、冬の今の時期は街の人間が自分の家の雛壇を公開するという雛壇祭りをやっている。
記者をやっている自分は、冬の足助を記事にするために、自前の車を使ってここまでやってきた。
まずやってきたのが三州足助屋敷だ。
「大人一人です」
受付の女性にそう言い、五百円の入場料を払うと屋根に苔の生えた雰囲気のある門をくぐる。
足助の町でやっている『中馬のお雛さん』祭りに合わせて、ここでも雛壇を飾っている。
昔、人はすべてのものを自給自足していた。食べ物は当然で、着るものも機織りで作っていたのだ。
三州足助屋敷では、その頃に使われていた、温かみのある道具が飾られており、先に予約を入れるとその道具を使って和紙を作ったりするのを体験する事ができる。
私は、ギャラリーになっている土蔵の二階に上がり、ここの名物の土雛を見た。
「へえ」
土雛とは、焼き物に色を塗って作った雛人形である。
私はその中の一つを気に入り、自前のカメラのシャッターを何度も切った。
その後、私は町に入る前に、秋に来れば鮮やかな紅葉が見られるだろうと思われる、香嵐渓のベンチで、缶コーヒーを買って一服した。
そこに……
「もしもし。旅の人」
背中から声をかけられ、振り向くと女の子が立っていた。
着物を着た姿で、どこか人間離れをしている雰囲気がある。
顔つきには愛嬌があって、ふくよかなほっぺた印象的であった。
「あんなにばかばかとフラッシュをたいて、日焼けをしてしまったらどうするつもり?」
そして、自分の隣に腰掛けてきた女の子。着物の背中には、紅葉のマークが着いているのが見えた。
「私は足助もみじ。あそこの雛人形の精霊みたいなものなの」
「君が精霊?」
「信じられないだろうけどそうなんだよ」
私の疑問には、それを一蹴するような返事を返してきた。
「それで、この辺に住んでいる人? なんか見ない顔だけど」
私の事に興味深深といった感じで質問をしてきた。
それから、二、三の質問をされる。その返事の中で、私は、自分が記者である事を話した。
「なら、私が足助の事を案内してあげようか?」
「お願いできるかな?」
彼女が何者なのかはよく分からないが、案内をしてくれるというのなら、ありがたい話だと思い私はその話に乗っていった。
「まずは腹ごしらえよ。びっくり屋にいこまい」
笑顔を浮かべた女の子は、私の手を引いてどこかへと導いていった。
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国道153沿いに歩くこと数分。昔の家屋をイメージしているような白い木材で作られた店が見えてきた。
「ここはこの辺じゃ有名な店なんだよ」
そう言って、もみじはこの店の五平餅を二つ注文する。
この店の主人が、竹を平べったく切り出した串にご飯を取り付けられた物を、焼いていく。焼いている間、米を焼く香ばしい香りがあたりに充満した。
その中、もみじは私に向けて笑顔で手を差し出してきた。
この店の払いは私にやらせるつもりらしい。
香ばしく焼かれたお米に、秘伝の甘みを持つはっちょう味噌の塗られた五平餅。
それに、この店で別に出している味噌おでんも美味しく、何本でもいけてしまう。
「どう? 美味しいでしょう?」
「うん。美味しいね」
「だらぁ?」
この土地の方言で、「そうでしょう?」という意味を持つ言葉を言ったもみじは、笑顔を私に向けた。
彼女の笑顔はこうして見ると愛嬌があって可愛く見えた。だが……
「そういえば、まだお礼を聞いてないな」
私はもみじの印象的なふくよかな両頬をつねった。
こいつは、私の金を使って五平餅を食べている。
いくら笑顔は可愛くても、腹黒い、いたずら小僧のような奴だ。
こういう奴には、少しばかり制裁が必要だろう。
「ほら言ってみろ。『ありがとうございます』って」
そう言って、私はもみじの両頬を思いっきり引き伸ばした。
「あいらとうこさいやふ……」
もみじは、私に口を引っ張られながらもお礼の言葉を口にし、私は引っ張っている手を放した。
「意地悪な人じゃんね。餅ひとつの金くらいでけっちい……」
「お礼も言えない躾のされて無いいたずら小僧には当然の報いだ」
自分の頬をなでるもみじを尻目に、私は自分の五平餅にかぶりついた。
懲りていないもみじは、またいたずら小僧のような笑顔をして私の背中を見ていたのだ。
「ほうら口にひげができとるよ」
たっぷりと味噌の塗られた大判の五平餅を食べると、どうしても口元に味噌がついてしまう。
もみじは、私の口元に付いた味噌を自分の指ですくって舐め取った。
口元に触れるもみじの、細長い指の感触で、私はつい動揺をしてしまった。
「こんな事で動揺なんかして、これではどっちが小僧か分からないじゃんよ」
一本を取ったといった感じで、勝ち誇ったようにしてにやりとした目を私に向けたもみじ。
「そういうお前こそ」
私は口元に味噌が付いているもみじの頬をぬぐった。
もみじは、それで顔を赤くしていった。
不意に見せる、このような驚いた顔も可愛いと思った。
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「ここが、足助町の市街地だよ」
もみじは私をここに連れてきて言った。
都会育ちの私には、市街地と聞くとコンクリートの町並みを想像するが、ここは木造の家屋が立ち並ぶ場所で、三百年昔の頃のような町並みである。
郵便局などの公共施設も、町並みに合わせて白塗りで木造の建物として作られている。
町をあげて景観を作っている土地なのだ。
田舎の家であるだけあり、飾られているのは一つ一つが豪華な雛壇であった。ほとんどが七段飾りの雛壇で、その豪華さに舌を巻くようなものもある。
「ちょい……雛ならここにとてつもなく可愛いものがいるじゃんか」
雛壇ばかりに興味を引かれてもみじの事をかまっていなかったが、それに腹を立てているらしいもみじは、膨れ面をして私の服の袖を引っ張った。
「しょうがないな…一枚撮ってやるよ」
「しょうがないってのは何じゃい!」
喚いているのにもかまわずに、私はもみじの姿を写真に撮った。
「って! ここで撮っちゃいかんよ!」
「何でだ? けっこうよく撮れているぞ」
私のカメラは、フィルム式だ。どのような写真が撮れたかはすぐに確認できるものではない。
だが、今の写真は、間違いなくいい一枚だった。膨れた顔であったが、彼女の生き生きした姿が撮れたのだ。
それにもかかわらず、もみじは、私の胸にしがみついて胸をぽかぽか叩きだした。
「いたいって……」
「これだけやってもまだ足りん!」
どんどんと自分の胸を叩き続けるもみじをなだめるには、少し時間がかかった。
「こっちについてきて」
もみじの案内で、やってきたのはマンリン書店という名の小さな本屋だ。
外観は他の建物に溶け込んでおり、小さいドアを開けて中を確認しなければ、そこが本屋であるという事は確認できなかった。
「そこの道に入って」
言われるままに、マンリン書店のとなりにある細い道に入る。そこは、猫の道と言えるような細い道だった。
道は細く両側に建物が並んでいる道であるが、ふしぎと窮屈な感じはしなかった。
石作りの道と、昔ながらの作りの家屋に挟まれたその小道は、何も新しいものの無い、本当に昔の姿をそのままに残した風情があり、歴史のある風景を残している場所であった。
「ほい。カメラの用意」
私の前に立ったもみじは、小首をかしげて笑顔を作った。
この姿をもう一度カメラに撮れという事だろう。私はカメラのレンズを向けた。
「……フィルムが切れてる……」
「なぁ!」
私はシャッターを切らなかった。
「せっかくいい場所を用意してあげたんじゃんか! どうしてそんなしょうない事になるの?」
「場所を用意してくれたのはいいが、フィルムが切れたら撮れないからな」
私は言ってその場所を後にした。
「ちょっと! なんでもどんの? 1枚くらい撮っていきんしゃい!」
ぎゃあぎゃあ言って私の背中をポカポカと叩いてくるもみじを気にせずに、私は小道から足助の市街地に戻っていった。
実は、私はもみじの写真を撮っていた。消音機能を使って、撮っている事を隠したのだ。
もみじが膨れ面をしているのを見て、私は心の中で笑っていた。
私も、もみじと同じいたずら小僧であるという事だろう。
昔はここは東海道の宿場町としてにぎわっていたらしい。
馬を貸し出す馬宿や、旅の疲れを癒す宿、それらが、形を変えて今でも残っている。
私は、すぐ隣を歩くわがままな雛人形を事を気遣って、もう雛壇の写真は撮らないようにした。
だが、この小憎らしい雛人形はというと、私の事などお構いなしに市街の様子を楽しみ始める。
「ほらほら。あれあれ」
などと言って、彼女は私の服の袖を引っ張ってきた。彼女が指をさす方向には、日月もなかという店がある。
「あそこは、私の一番のお気に入りじゃんよ」
わざとらしく、唇に指を当てて物欲しそうにして私の事を見る。
「びっくり屋で食べただろう? あそこはどうなんだよ?」
「あそこも私の一番じゃんよ」
「一番ってのは一つしかないはずだぞ」
「ん~……」
もみじは頭を抱えだした。
「私の本当の一番……私の本当の一番……」
私は黙ってそれを見ていた。彼女は、私に足助町の案内をしてくれると言ったはずだ。自分の一番のお気に入りの店や、おすすめの場所などを教えなくてはならないはずである。
彼女の考えがまとまるのを待っていると、もみじは頭を抱えるのをやめて、私に向けて顔を向けた。
「決められんがや」
結局は、どれもが彼女の一番好きなものであるらしい。
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次にもみじは、私をバス停まで案内した。
「歩きっぱなしで疲れただらあ? お風呂に入ってさっぱりしりん」
ここの方言を使って話をするようになってきたもみじ。笑顔も、心なしか生来の無邪気さが現れてきたようである。
ここは一時間に一本おいでんバスが通っている。そのおいでんバスの終点は百年草という施設である。
木々に囲まれた森の中、気持ちのいい川のせせらぎの音がすぐ隣に聞こえる場所に、存在感を持った建物がある。
「ここの入浴料は二百円じゃんね」
この建物の前に着くと、もみじはまた笑顔で手を差し出してきた。
またか……と思いつつも、私は彼女のその笑顔を見ると、自分の財布の紐を緩めてしまう。
いいお湯だった。
体が温まり、体の疲れの取れた私は、ロビーまで歩いていった。そこには、すでにもみじが待っていた。
「どう? ゆっくりするにはちょうどいい場所だらあ?」
ロビーの一つの椅子に腰掛けているもみじは、すでに手にコーヒー牛乳を持っていた。あれの払いも私であろう。もうすでに突っ込む気力は消えうせている。
私が何も言わないのをいいことに、もみじは小憎らしくも悠々としていた。
「ここにはZiZi工房っていうソーセージ屋さんと、バーバラハウスっていうパン屋さんがあるじゃんね」
もみじの言いようからするに、またそこで何かを買って、私に払いをやらせるつもりらしい。
それを分かった上で、私はふと『買ってやろう』などと考えてしまう。
彼女の愛嬌のある笑顔や、いたずら好きで小憎らしいが、けっして嫌な感じのしない態度には、普段から取材と事務仕事の繰り返しで、気づかぬうちに心をすり減らしていた自分の心を癒してくれたようだ。
私は、おもむろにもみじの頭に手を置いた。
「え……どうしたんよ?」
私の不意の行動に、顔を赤らめて反応をしてくれるもみじの顔も、またかわいかった。
ZiZi工房とは『じじいの工房』という意味から取って付けられた名前らしく、この村の年配達がソーセージを加工している姿が、ガラス越しに見えるようになっていた。
一つ試食をしてみたが、かぶりつくと、カリッと気持ちのいい音がして、ソーセージの肉汁が口の中に広がる。
そこらのスーパーで売っているような品とは比べ物にならない美味しさだ。
「ここのは本当に美味しくて、いくらでもいけちゃうんよ」
そう言いながら、もみじはまた一つ、また一つと、口の中に放り込んでいった。
「あんまり食いすぎるなよ」
「うん。分かった」
そう釘を刺しておいたが、それがどれほどの効果を持つだろうか?
もみじの返事を聞くだけでは、どうも信用が置けない。
ガラス越しに見えるソーセージを作る姿は真剣そのものである。
足助町は、日本に昔から伝わっているような硬い文化のみを重んじているような印象があったが、このように新しい事にも挑戦をし続けている。
本気になって何かをやろうという人の、熱意のある姿は見てていて悪いものではない。
私は、そのおじいさん達の姿を何度もフラッシュを焚いて撮った。それに気づいてくれた彼らは、私に対して笑顔で手を振ってくれたのは印象的であった。
「もみじ。もう行くぞ」
私は、もみじに向けて言った。
「そうじゃんね。もうお腹いっばいだし」
お腹いっぱいというフレーズに嫌な予感を感じた私。
試食品が置いている棚を見ると、もみじは、意地汚くも、試食として置いてあるソーセージをほとんどたいらげてしまっていたのだ。
「どれだけ意地汚いんだお前は」
「いったいて……ごめん許して……」
私は、もみじの頬をおもいっきりつねった。
店の人は別にかまわないと言ってくれたが、ばつが悪くなった私は、お土産用として売っているセットを購入して家まで送ることにした。
話によると、このセットはネットでも注文を受け付けているという事だ。
(この味が恋しくなったら、また注文をする事にしよう)
私は、痛がって頬をさするもみじを叱りながらも、そう考えた。
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私達二人は、おいでんバスに乗って、元の足助市街に戻っていく。そのバスの中で、もみじは私に話しかけてきた。
「もうそろそろ、暗あなるね」
そろそろ日が傾きかける時間だ。西日が差し込んでくる茜色のバスの中、もみじは、前の席から私の顔を覗き込んできた。
「ねえ今日はおもろうかった?」
何度も私に向けてきた笑顔。だがそれには少しかげりがあるように見えた。
「楽しかったよ。ありがとう」
そう言い、私は笑顔のもみじの頭をなでた。
「できれば、明日も案内をおねがいできないか?」
そこに、なぜかもみじの目じりに涙が浮かんだのが気にかかる。
「どうしたんだ?」
「私は、今日一日しか外に出られないんだ」
目じりに涙が浮かんだままだが、彼女は笑顔を崩さずに言う。
「今日は私も本当に楽しかった。こんなに楽しかったのは久しぶりなんね」
そして、とうとうこらえきれなくなってしまったのか、目から涙が線を作ってこぼれていった。
「楽しかった分、別れるのが悲しくて……こんなわがままな私と遊んでくれてありがとう……」
「どういう事だい? 私は今日ここに泊まるんだよ。明日また会えばいいじゃないか?」
泣いているもみじの頭を抱きかかえた私は聞いた。
「私がの雛人形の精霊みたいなものだってのは言ったよね……」
もみじは、私に手を伸ばしてきた。その手は、まるで存在が消えかけているように透けている。
私がその手を取ろうとするが、私の手は空を切った。
「そろそろ時間みたい……」
こんな事だったらもっと早く言って欲しかった。
今日一日の思い出は、無邪気で生意気なもみじという女の子とのふれあいが、すべてと言ってもいい。
できることならば、明日も、その次の日も、こんな楽しい日をおくりたいと思っていた。
その願いは、こんなどうしようもない形で打ち壊されることになってしまったのだ。
「できれば、私は明日も明後日もこんなふうにして遊びまわりたかったよ。だけど、私は人間じゃないし、あなたと一緒にいる事ができるのはほんの短い間だけなんだ……」
私は胸がいっぱいになり、何も言う事ができなかった。
ついさっきまで、ひっぱたいたり、つねったりしてきたのに、今では彼女の手を握ることすらできないのだ。
彼女のために何かをしてあげたい。そう思う想いだけが、胸の中を占めていく。
そして、何もしてやれる事なんて無いという事実が、どうしようもなく自分の胸を痛めつけた。
「最後に、一緒に行って欲しいところがあるんだ……」
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私達二人は、香嵐渓に戻ってきた。
「最後にこれだけ見ていきんしゃい」
もみじを中心にして、葉の落ちた紅葉の木が紅葉を始めた。
「あなたにしか見えない、あなただけの特別もんじゃんよ」
みるみるうちに赤い葉をつけた木は広がっていき、山全体が秋にしか見ることのできない紅葉でいっぱいになった。
茜色の日を浴び、赤い葉が一段と輝く。地面いっぱいにもみじの葉が落ちて、これまた鮮やかな絨毯のようになっていた。
もみじは、私に近くにあるこしかけに座るように促すと、彼女自身は私の隣に座った。
「いつまでも、ずっと見ていられるだらあ?」
もみじが言うように、鮮やかで、むしろ神秘的にすらみえる香嵐渓の紅葉は、いくらでも目を楽しませてくれる。
おもむろに私の前に立ったもみじは、消えかけた手を私の頬に伸ばす。
だが、その手では私に触れることはできずに、空を切るだけだった。
「ほら言ってみろ『ありがとうございます』って」
びっくり屋で、私が彼女にした事をオウム返ししているつもりらしい。
「あいらとうこさいやふ……」
私も、仕返しに彼女が言ったことをそっくりそのままオウム返ししてやった。
「ぷっ……あっははははははは」
もみじは、私が言うのを聞いて笑い始めた。私もつられて笑ってしまう。
「はっははははっはっはは」
二人の笑い声が、紅葉の美しい香嵐渓に響いていった。
二人は、足助屋敷の前に来た。
「ここでお別れじゃんな」
もみじは、もう泣き顔を見せてはいなかった。私と始めて会った時のような愛嬌のある笑顔をしていたのだ。
「また会おうな」
足助屋敷の方に向かって歩いていくもみじの背中に声をかけた。もみじの体はほとんどが消えてしまっている。いつ完全に消えてしまってもおかしくないような様子であった。
最後に、もみじは私に向けて振り返ってきた。
「また足助町においでん」
その言葉を最後に、もみじは消えていってしまった。
もう別れは済ませている。すっきりした気分の私は、今夜泊まる予定の宿へと足を向けた。
次の日、私はもう一度足助屋敷に足を向けた。中に入ると、すぐに雛壇に向けて歩いていく。
「これだな……」
雛壇をいくつも見ていくと、私は目的の雛人形を見つけた。
それはこじんまりとしていて、あのもみじのイメージにぴったりの可愛い姿をしていたのだ。
私は、フラッシュを焚いて、何度もその雛を写真に撮った。
もう一度、もみじが私のところにやってきて、小憎らしく『あんなにばかばかとフラッシュをたいて、日焼けをしてしまったらどうするつもり?』などと言いに来る事を期待していたのだ。
もみじは、昨日楽しく遊んだ記者が雛人形を何度も写真に収めているのを見た。
彼が期待をしている事は手に取るように分かる。
もみじは、今人の目に映らない。彼に声をかけたいが、何を言っても届かない。
その事実に、もみじは、嬉しいような、寂しいような、複雑な気持ちを抱えながら彼の事を見ていた。
「たあけ。私はこっちじゃんな」
別の雛人形の精霊であるもみじは、小憎らしい笑顔をしながらそう言った。
結局期待はかなわなかった。
あの時会った少女は幻であったかのように姿を消してしまった。滞在をする事ができるのは今日が最後で、今日の夜には東京に帰らなければならない。
名残を残しながらも、私は足助町を離れていく。
皆さんも。もし、雛人形の精霊を名乗る女の子と出会うことがあったら、どうか彼女と一緒に遊んであげて欲しい。
終了
ライターより
風光明媚な風景に、一年中何かしら楽しむことができ、やってくる人も多い人気の場所です。
私はびっくりや、足助市街地、百年草、香嵐渓と、書きましたが、自分として他におすすめなのは足助城です。
この場所は、東海道の宿場町として多くの物流があり、みやげ物や宿などの店が、多く存在していました。
そこを見守るように高台に立てられた城から眺めることのできる景色はよく、歴史について興味のある自分としても、城の構造などを生で見れるというのは、興味深いものです。
そして、この地では香嵐渓のもみじを語らずにはいれません。
上を見上げると、一面に鮮やかな赤が広がる景色の中で、隣に流れる川の流れの音を聞きながら散歩をするのは最高です。
夜にはライトアップもあり、また違った輝きを見せてくれます。ただ、ライトの当てすぎで紅葉が焼けてしまうといけないため、長い期間やっているわけではありません。やっている期間を先に調べておくとよろしいでしょう。
もみじを堪能した後、ここで捕れた鮎を楽しんだり、いのしし鍋などの、郷土料理も多いので泊まりで行っても一日中楽しめます。
一度行ってみてはいかがでしょうか?
